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読書が苦手だった私が、五十歳を過ぎてから、急に読書が好きになった。そのおかげで人生が豊かになった気がする。これからもっと読書が好きになれるように、人生が楽しく豊かになるように

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家族 小杉健治

あらすじ
認知症の牧田文子が殺害される。ワイドショーは息子の牧田孝一郎が犯人のような報道を繰り返すが、ホームレスの三田尻作雄が逮捕された。
この事件の裁判の裁判員に選ばれた谷口みな子は、三田尻作雄がなにかを隠していると感じる。
そして、谷口みな子は三田尻作雄の秘密に気づく。裁判員裁判のあり方、老老介護問題、ホームレスから抜け出せない不況、そうしたことを考えさせられる、小杉健治さんらしい読みやすい作品です。
書き出し
 午前七時十分、高校生の牧田駿が家を飛び出していく。茶髪で、耳にピアスをつけている。鼻の頭に出来たニキビを気にしているらしい。スポーツバッグを腰より下の位置に提げている。サッカー部に入っているようだ。
 その駿を見送るのは、祖母の文子だ。数年前に軽い脳梗塞を患い、軽く左足を引きずっている。七十九歳だというが、髪は薄く、頬もこけているので、八十半ば過ぎに見えた。
 そのあと、文子は庭の植木に水をやりはじめる。その動作は緩慢だ。狭い庭には紫陽花が色づいている。
第一章 裁判員候補者
江戸川で認知症の牧田文子が殺害される事件が起こった。ワイドショーが、息子の牧田孝一郎が犯人であるかのような報道を繰り返す。
古木田良介はそのワイドショーを見て、自分が裁判員裁判の候補になっていたことを思い出した。この事件の裁判員が、このワイドショーを見て、偏見なく審判することは難しいだろうと嘆いた。
谷口みな子は介護する母親と暮らしている。ワイドショーを見て他人事ではないなと思った。そして谷口みな子も裁判員の候補にあがっていた。
しばらくして、犯人が捕まった。ワイドショーは息子の牧田孝一郎を犯人のように報道していたが、捕まったのはホームレスの男だった。
ホームレスの男の身元はわからなかったが、自分の兄の三田尻作雄ではないかと遠野幹子が警察にやって来た。
裁判員裁判の課題や老老介護の問題、テレビの偏向した報道などを取り上げた第一章でした。
第二章 傍聴席
 狩野川忠幸弁護士は国選弁護人として、江戸川区のホームレス強盗殺人事件の弁護を担当する。牧田文子が殺害された事件。狩野川にとって、はじめての裁判員制度による裁判だったが、狩野川裁判員制度には否定的な考えだった。理由は審議が裁判員の負担を考慮し三日から五日と短く、そのため争点が裁判をはじまる前に決められてしまうことなどだ。
古木田良介と谷口みな子は裁判員に選ばれる。古木田は重要な仕事があり断りたかったができなかった。谷口は母親の介護を理由に断ることは出来たが、被害者が母親と同じ認知症だったことで事件に興味があり積極的だった。七瀬智久は仕事が仮採用の期間で、休むと本採用してもらえないと嘆いた。裁判員の負担が課題になっていた。
傍聴席には被告人三田尻作雄の妹、遠野幹子と被害者の息子、牧田孝一郎の姿があった。牧田孝一郎が被告人を見る目は、母親が殺されたにも関わらず、憎悪の色はなかった。
被告人三田尻作雄がホームレスになる前、家族を大切に思っていた。しかし、ある理由で失踪した。三田尻は被害者文子を見て自分の母親を想像したのではないかと狩野川は考える。三田尻は優しい表情をしていて殺人を犯すような人間には見えなかった。
第三章 質問
弁護人の谷口みな子は最初、質問する勇気を持てなかったが、思いきって質問した。
谷口みな子は認知症の母親を介護する立場から、牧田孝一郎には認知症の母親、被害者の文子が死んでほしいという気持ちがあったんではないか、三田尻作雄に殺害を依頼したのではないかと考える。
それくらい認知症の介護は大変なのだ。
証人に立った牧田孝一郎に被告人との接点がなかったか質問する。
また、七瀬智久はワイドショーの報道について牧田孝一郎に質問をぶつける。ワイドショーでは牧田孝一郎は被害者を怒鳴りつけていたと報道されていた。
牧田孝一郎の事件当日の行動にも不審な点があった。仕事を早退しているが、まっすぐ家に帰らず、ネットカフェによっている。まっすぐに帰っていたら事件は起こらなかったのではないかと、谷口みな子は牧田孝一郎に質問した。
第四章 再会
公判最終日、古木田良介は裁判所の門を入ったとき被告人の妹、遠野幹子を見つけた。遠野幹子の後ろを歩く三十代の男女がいた。被告人三田尻作雄の子供ではないかと思う。父親と三十年振りの再会なのかもしれない。
谷口みな子は三田尻作雄が子どもと再会して、犯行時と違った心境になるかもしれないと期待した。
遠野幹子が証人としてあがる。兄、三田尻作雄は母親思いの優しい性格で母親と同じ年代の牧田文子を殺すはずがないという。
二人目の証人、露木久男は被告人三田尻作雄のホームレス仲間だ。露木は、三田尻作雄は優しく、家族思いで、三田尻が三年前に一度家族に会いに行ったと証言した。そのとき母親が亡くなっていることを知り、涙を流していた。小さな板切れで位牌をつくり朝夕拝んでいたという。
このことを狩野川弁護士は知らなかった。迂闊だった。そして、先輩から言われた言葉が脳裏を掠めた。
「自白事件こそ気を付けろ」
被告人は隠し事をしている。しかし、裁判員裁判は従来の裁判と違い時間の猶予がない。
被告人質問で谷口みな子が三田尻作雄に自分の子どもの前でも強盗の末、人を殺したと言えるか、と質問した。
三田尻は、子どもとは会っていないので実感がないと言ったが、傍聴席に子どもは来ていた。
傍聴席の遠野幹子が、子どもはここにいる、と叫んだ。それを知った三田尻作雄は狼狽してしまい、その後の審議が出来なくなり、明日に延期になってしまった。裁判員のなかからは、仕事に影響すると不平が出た。
谷口みな子は、それなら明日、露木久男を証人としてもう一度呼んでほしいとお願いする。
第五章 評議拒否
証人に露木久男がたつ。そして、もう一度牧田孝一郎もたつ。そこから新たなことが、谷口みな子の質問によりわかっていく。そして、真実が見えてくる。
家族への愛、老老介護問題、ホームレスにならざるを得ない不況、裁判員裁判のあり方、そうしたことが一気にあふれ出す結末です。