小説に興味を持ってから人生が楽しくなった

読書が苦手だった私が、五十歳を過ぎてから、急に読書が好きになった。そのおかげで人生が豊かになった気がする。これからもっと読書が好きになれるように、人生が楽しく豊かになるように

⑨婚カツ屋という名のちょっと変わった結婚相談所

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 屋敷史郎 

 墓参りの前に、事務所の掃除をした。窓ガラスを拭きながらこのビルの下の道路を覗いた。『焼鳥屋さち』の大将が箒とちりとりを持っている姿が見えた。毎日この地域の清掃をしている。大将は自分の店だけではなく、この地域を盛り上げるために日々奮闘してくれている。俺もこれまでずっと大将にはお世話になった。
「あれから二十年か」と心の中で呟き、二十年前のことを思い出した。

「ヤッシー、こないだ、洋介とナンパしたんだって?」悪友の宮下俊二と大学の帰りに近くの居酒屋で一杯やっている時に俊二が身を乗り出して訊いてきた。
「ナンパじゃねぇよ。洋介が文学部に気に入った娘がいるっていうから、洋介の代わりに学食で声かけただけだ」
 俺は紫煙をフゥーと吐き、モヤモヤと天井に上がっていく煙を眺めた。
「洋介、その娘とうまくいってるらしいぜ。あいつ、今、めちゃくちゃ楽しそうだ。俺、あいつが羨ましいよ」俺に熱い視線が突き刺さる。
「そうか、それはよかった」俺はその視線をかわして、煙草を灰皿に押し付けた。
「俺も頼むよ」俊二が俺に手を合わせてきた。
「何が?」
「冷たいなぁ、俺とヤッシーの仲じゃないか」
「ふん、知らねぇよ」二本目の煙草に火をつけた。
「う、うわぁー、親友の俺によくそんな冷たく出来るねー」
「どうせ、あの娘だろ?」駅前のハンバーガーショップで働く娘だとわかっていた。
「ヤッシー、わかってるくせに、頼むよー」
「自分で声くらいかけろよ」
「その勇気がないから頼んでんだろ。それとも何か、洋介にはできても俺にはできないわけ? ヤッシーはそんな冷たい人間なのか」
「はぁー」俺はため息をついてから、「わかった、わかった、じゃあ、その娘の仕事終わりを狙ってみよう」
「さすが、ヤッシー、持つべきものは友達だぁー」俊二がジョッキを持ち上げてきたので、俺も持ち上げてコツンとあわせてやった。ジョッキの向こうにクシャクシャになった俊二の顔が覗いた。

 俊二の気に入ってる娘は、ハンバーガーショップで働く高崎という娘だ。小柄で目がクリクリして丸い顔をしている。笑った時に出来るエクボが魅力的だ。俊二はその笑顔にメロメロになっていた。確かに俊二の好きなタイプの娘だと思った。
 俊二はハンバーガーを買いにいくといつも笑いかけてくれる彼女が、自分を気に入ってくれているんじゃないかと、大きな勘違いをしている。
「あれは営業スマイルだ」俺がそう言っても反論する。
「いや、それは違うと思う。俺の目をじっと見てるから、きっと俺に気があると思う」そう言ってきかない。
 それなら自分で声をかければいいと思うが、その勇気はないらしい。俊二もルックスはそこそこだし性格もいい奴だから、きっとうまくいくとは思うが、相手の娘の情報が名札に書いてあった名字しかない。彼女には、すでに彼氏がいるかもしれないし、好きなタイプが俊二のようなタイプではないかもしれない。とりあえず、声をかけてみて、ダメなら仕方がない。せっかく俊二が気に入ったんだから、この縁を見送ることはない。当たってから砕ければいい。それが幸せへの近道のはずだ。そう思って協力することにした。

 高崎さんの勤務は五時までのはずだと俊二がいうので、ハンバーガーショップの裏口の斜め前にある自販機の前で待っていた。今日が五時までだと勤務時間をよく調べたものだと俊二に感心した。今日のお礼にと俊二が自販機で缶コーヒーを奢ってくれた。俺はガードレールにもたれて缶コーヒーのプルトップをあけてひとくち飲んだ。甘すぎるなと缶のラベルに視線をやった。俊二はペットボトルのミネラルウォーターを一気に飲み干した。緊張して口が乾いているのだろう。ここに来てから俊二は相撲取りの取り組み前のように顔を何度もパンパンと叩いていた。
「あっ、出てきた」俊二が声をあげた。ハンバーガーショップの裏口を見ると高崎さんが出てきたところだった。表とは違う殺風景なハンバーガーショップの裏口がぱっと明るくなった。
 俊二が俺の方を見た。大きく目を見開いている。子供がおやつをねだるような表情をしていた。
「行くか」俺は缶コーヒーを無理やり飲み干して自販機の横にある空き缶入れに捨てた。俊二は空になったペットボトルをぎゅっと握りつぶしてから捨てた。
「う、うん」俊二の喉がゴクリの鳴った。
 高崎さんは、ハンバーガーショップの裏口から出たところでスマホをいじっていた。彼女の方へ歩きだそうとした時、高崎さんがスマホから視線を上げて一歩二歩駅の方向に歩いて、そちらを見ながらにこやかに手を振っていた。
「えっ」
「えっ」
 俺と俊二は同時に声を上げた。
 彼氏と待ち合わせでもしているのかもしれない。彼女の視線の先に目をやると、信号が青にかわって、駅の方から商店街へ横断歩道を渡ってくる人の群れがあった。群れの中に高崎さんが手を振っている相手がいる。俺が視線を走らせると、先頭グループの右端に背が高くロングヘアーの女性が高崎さんの方に手を振っているのが見えた。
「あらら、連れがいるぜ」今日は高崎さんはひとりではないようだ。せっかく待っていたけどあきらめるしかない。待ち合わせの相手が男でなくてまだ良かった。もし、男だったら、今から俊二のやけ酒に付き合うことになっただろう。今日は見送りだと思った。
「連れがいるみたいだな。日を改めよう」俊二の顔を見ると、じっと高崎さんの方を見ていた。
「ヤッシー、二人に声かけて、ダブルデートに持ちこめないかな」高崎さんを見たまま俊二は言うが俺は気乗りがしない。
「あーいうタイプは苦手なんだよな」ロングヘアーの娘の方に顎をつきだした。二人に声かけるのは告白じゃなくナンパだと思われるだろうとも思った。
「今日はやめとこう」俺は俊二に諦めるように言った。
「今さらやめられないよ。今の気持ちがおさまらない」俊二はおやつをおあずけされてダダをこねる子供のようになっていた。
「連れがいるのに二人を誘うのか」
 俺があきれたように言うと俊二はうんうん、と何度も頷いた。
「はぁー」俺は重い息を吐いた。
「連れの娘、ヤッシーのタイプじゃないか?」
「まぁな」確かに好みのタイプではあるが苦手なタイプでもある。
 高崎という娘とロングヘアーの娘がハンバーガーショップの裏口の前で少し話してから商店街を奥へと入って行った。
「行っちゃうよ。ヤッシー、追いかけよう」俊二が俺の手を引っ張った。
「わかった、わかった。俊二、離せよ」俊二の手を振りほどいた。「仕方ないな、行くか」
「うん」俊二の喉がゴクリと鳴った。
 人通りの多い商店街を俺と俊二は彼女たちから距離をおいて歩いた。俊二の鼻息が聞こえてきた。
 商店街の出口付近まで来て人通りが少なくなった。そこから少し早足で彼女たちとの距離を詰めた。
「こんにちわ」彼女たちの背後から優しく声をかけた。ロングヘアーの娘が先に振り返り俺に冷たい視線を向けてきた。整った眉と黒目の大きな瞳に意志の強さを感じた。続いて高崎さんが振り返り眉を上げて目を見開いた。俺を通り越して俊二を見ているようだった。
「美佐、行こう。これナンパよ」ロングヘアーの娘は俺に一瞥してから高崎さんの肩を持って、俺たちに背を向けて立ち去ろうとした。高崎さんの名前は美佐のようだ。
「いや、ナンパじゃなくて、告白なんだ」俺は彼女たちの前に回り込んだ。「ちょっとだけ聞いてやってくれよ。俺は屋敷史郎、そしてこいつが宮下俊二」高崎さんが後ろにいる俊二を見ていた。「実はこの宮下俊二が、高崎さんに一目惚れしたんだ。どうしても高崎さんと話がしたいから、声をかけさせてもらった」
 高崎さんが両手を口にあて、目を見開いた。これはいけると思った。「たのむよ、話だけでも聞いてくれ」俺は手を合わせた。
「わたしは、山野里美」ロングヘアーの娘はそう名乗ってくれたが、まだ冷ややかな視線のままだった。
「めしでも食べにいかないか?」山野里美に言った。
 山野里美は少し口を歪めて宙に視線をやった。
「少しの時間でいい」俺は山野里美と高崎美佐に順に視線をやった。
「お願いします」後ろから俊二のかすれた声が飛んできた。
「どうする?」山野里美が高崎美佐の方に視線をやって訊いてくれた。
「山野さんと一緒なら……」高崎美佐は俯きながら言った。
「よーし、決まりだ。この先に最近オープンした焼鳥屋があるんだ。旨いと評判だ。四人でそこに行ってみないか」一気にたたみかけた。
 高崎美佐が頷いた。
「わかったわ。でも、わたしはお邪魔じゃないかな」山野里美が言った。
「いや、あんたも一緒がいい」俺は山野里美が気に入っていた。一目惚れしたのかもしれない。
「わたしも里美と一緒じゃないと行かない」高崎美佐が言った。
「みんなで焼鳥屋に行こうよ」俊二の声が明るかった。調子のいい奴だ。
「焼鳥は、もちろんこいつの奢りだ」俺は俊二の後頭部を持って揺らしながら言った。俊二は親指を立てOKのサインを出した。
 山野里美がクスッと肩をあげて笑った。高崎美佐は、あどけなく笑った。

 四人で最近オープンした焼鳥屋『さち』という店に行った。店に入ると「いらっしゃい」と威勢のいい中年の男性の声が飛んできた。この店の大将だろうか、にこやかな表情で迎えてくれた。
「おーっ、若いお客さんだ。いいねぇ。店が明るくなるよ」そう言って笑っていた。
 きれいで品のある女性が注文をとりにきてくれて、俺が適当に注文した。女性は注文したメニューを確認したあと、「ごめんね、うちの大将、若い子が来たらはりきっちゃうの」そう言って笑った。俺は、この瞬間この店のファンになった。焼鳥も噂どおり絶対旨いはずだと思った。
 ビールで乾杯した後、みんなで自己紹介をした。旨い焼鳥とこの店の雰囲気のおかげで、その後の話も盛り上がっていった。
 俊二の言っていたことも、まんざらハズレではなかった。高崎美佐も俊二のことを覚えていた。俊二がハンバーガーショップに来ている時に、俊二のことが気にはなっていたようだった。
 高崎美佐はで服飾の専門学校に通っていて、週の半分くらいハンバーガーショップでアルバイトをしているそうだ。山野里美は大学生で高崎美佐とは中学校からの友人でたまに二人で食事に出掛けるそうだ。二人とも二十歳で俺たちより一つ下だ。高崎美佐は高校生のように見えるが、山野里美は俺たちより年上に見える。今日は、これから二人で食事に行くつもりだったらしい。どこに食べに行くか相談しながら歩いているところに俺が声をかけてきたわけだ。
 山野里美も少しは心を許してくれたのか、笑顔で話してくれていた。しかし、ナンパされたことには抵抗があるようで、俊二はともかく、見知らぬ女に声をかけてくる俺に対しては軽い男のように思っているようだ。
「いつも、こんな風に女の子に声かけてナンパしてるの?」
「いや、いつもじゃないよ。今日は、たまたまこいつが頼んでくるから、声かけただけだ。だからナンパじゃなく告白の手伝いだ」
「でも見知らぬ女性に簡単に声かけるなんて、普通じゃないわよね。わたし軽い男、嫌いなの」
 簡単に声をかけたわけじゃない。俺は俊二が幸せになれるならと思って声をかけた。軽い気持ちではなく、俺は真剣だ、と反論したかった。
「別にいいじゃねぇかよ。こうして知り合いになれて楽しく過ごしてるんだから。これで俊二と美佐ちゃんが付き合うようになって幸せになれたら万々歳だろ」
「美佐ちゃんなんて気安く呼びすぎでしょ」
「なに怒ってんの、里美ちゃん」
「やめてよ、そんな呼び方するの。さっき出会ったばっかりよ」
「里美ちゃん、堅いこと言うなよ。俺は出会い方なんて、どうでもいいと思ってる。大事なのはこれからだ。これから先に、あの時、出会えて良かったと思えればそれでいいんだ」
 俺はその後も山野里美と男女の出会いについて意見をぶつけていた。俺はそれも楽しかった。山野里美も後で聞いた話だが楽しかったらしい。
 俺と山野里美が口論を続けている横で俊二と高崎美佐はいい感じになっていた。俊二のにやけた顔が視界の隅に入ってくる。
 そして俊二は高崎美佐の連絡先をゲットした。

 その後、俊二と高崎美佐は交際を始め卒業してからも良い関係が続いていたようだ。
 俺も俊二も大学を卒業して社会人になった。俊二は製薬会社に勤め、俺は食品メーカーに就職した。お互い忙しくなり、連絡しなくなっていた。
 ある日、久しぶりに俊二から電話があった。俊二と話すのは俺の結婚式以来だ。
「ヤッシー、久しぶりだな」昔と変わらない俊二の声が受話器から聞こえてきた。
「おーぅ、俊二、久しぶり」二人とも声が弾んでいた。
「ヤッシーに報告があるんだ」受話器の向こうの声は一段と弾んでいた。
「どうした? 嬉しそうじゃないか」
「そりゃ、嬉しいよ。俺、美佐と結婚することになった」
「そうか、そりゃ良かったじゃないか。おめでとう」
「うん、ありがとう。これも全てヤッシーのおかげだ」弾んでいた声が少し震えだした。俊二は昔から泣き虫だ。
「なに言ってんだ。別に俺のおかげじゃないよ」
「あの時、ヤッシーが美佐に声かけてくれたおかげだよ」鼻をすする音が聞こえた。やっぱり泣いている。俺も胸が熱くなった。
「けど、美佐ちゃんもお前のこと最初から気に入ってたみたいだし、俺が、あの時声かけなくても、いずれは結ばれたんじゃないか。反対に俺の方こそ、あの日のおかげで幸せになれたよ」
「そんなことない。ヤッシーのおかげだ。だから、ヤッシーには、すぐに知らせないといけないと思ったんだ」
「そうか、ありがとう」
「ヤッシー、結婚式来てくれよ」
「当たり前だ。絶対に行く」
「それから、お願いがあるんだ」
「なに?」
「結婚式で友人代表のスピーチをお願いしたいんだ」
「俺がか?」
「そうだよ、ヤッシーが俺たちの愛のキューピットだから、ヤッシー以外に考えられないよ」
「うーん、人前で話すのは苦手だけどな。けど、俺の結婚式は俊二がスピーチやってくれたしな。喜んで引き受けるよ」
「ありがとう。それから、ヤッシーの奥さんにも嫁さんの友人代表でスピーチを頼むと思う」
「里美もか? 夫婦でスピーチかよ」
「うん、美佐から里美さんに連絡するって言ってた」
「里美は、俺と違ってスピーチ得意そうだから大丈夫だろ」
「ヤッシーもスピーチの練習しといた方がいいよ。洋介も結婚する時は、ヤッシーにスピーチ頼むって言ってたし、他の奴もみんなヤッシーが愛のキューピットだから頼むって言ってた」
「ウソだろ。洋介もかよ」
「そう、当時の奴はみんな結婚できるのはヤッシーのおかげだって言ってる」
 そう言ってくれるのは、すごく嬉しいが、スピーチをやらないといけないのかと思うと、胸はポカポカとあったかいのに胃の辺りだけはピリピリとした。

 出会ってから二十年、みんなが幸せになってよかった。俺ももう一度幸せになろう。そして、幸せにしてやろう。そう決意した。
 その前に墓参りに行って、そのことを報告しないといけない。本当なら彼女をもっと幸せにするつもりだったのだから。結婚生活は一年半。短かすぎだ。

 里美と出会った時、ナンパする俺に偏見の目を向けていた。里美に惚れて告白したが、なかなか信用してもらえなかった。
「出会いがナンパだと変な目で見る奴もいるけど、俺は出会い方より別れる時が大事だと思っている。出会いがあれば、必ず別れがあるわけだから。別れる時に『あなたに会えて幸せだった』『幸せにしてくれてありがとう』そう言ってもらえるような生き方をしたいんだ。みんなにも、そうなってもらいたい。だから出会いをサポートしただけなんだ」
 俺は、そんな偉そうなことを言っていた。
 しかし、『あなたに会えて幸せだった』『幸せにしてくれてありがとう』そう言ってもらえても、別れるのは辛いんだなと里美の最期の言葉を思い出していた。
 里美は亡くなる二日前、病室で俺と最期の会話をした。
「史郎さん、ありがとうね」
「なに?」
「いろいろと幸せにしてくれてありがとう」
「改まって言うなよ」
「あなたに会えて良かった。あなたと結婚して幸せだった」
「わかった。黙って寝てろ」
「ダメ、史郎さんがわたしに告白した時、言ったじゃない。覚えてないの」
「なにを?」
「わたしが出会いがナンパなんて幸せになれないって言った時、出会い方なんてどうでもいい。別れる時に、あなたに会えて幸せだった、ありがとうと言ってもらえる方が大事だって」
「覚えてる。というか、ずっとその気持ちで生きてきたからな。お前を幸せにすると決めて……」涙がこぼれた。
「だから、最期に史郎さんにそれを伝えたくて」
「まだ最期じゃない。これからもお前を幸せにする」
 里美はゆっくりと静かに首を横にふった。目が少し潤んでいた。
「あのね、史郎さんのその生き方は好きだし、かっこ良かった。だから、わたしからのお願い。これからも誰かを幸せにするための出会いを大切にしてね」
「……」
「もう一度言うね。あなたに会えて良かった。あなたと結婚して幸せだった」
「まだ、別れの時じゃない。別れたくない」俺は涙を流しながら俯いて言葉を絞り出すように言った。

 次の日から里美の体調が急変した。そして俺の手を握ったまま帰らぬ人になった。
 里美の最期の言葉は、たぶん自分が死んだら、遠慮しないで他の女性を幸せにしてあげてということだったのだろう。しかし、俺はそんな気分になれるはずはなかった。なにもかもやる気になれなかった。仕事を辞めて、その日暮らしの生活を送っていた。
 そんな俺を俊二が心配して、美佐さんを連れて何度も会いにきてくれた。
「ヤッシーは結婚相談所をやったらいいと思う。ヤッシーはみんなを幸せにする才能があるから」俊二が会いにくる度にそう言ってくれた。俺も少しずつ立ち直り、俊二の言葉を真に受けて俺は婚カツ屋という結婚相談所をはじめることにした。
 相談にきた奴に良い出会いがあり幸せになれるように、俺はがむしゃらに働いた。楽しく、それなりにうまくいった。
 そして、最近、俊二は俺に再婚をすすめてくる。
「ヤッシーも幸せになるべきだ。これからは自分の出会いも考えないといけない。里美ちゃんだって、天国でそう思ってくれているよ」と俺に説教するようになった。泣き虫だった俊二も父親になって、大人になった。
 そして俺にも新しい出会いがあった。俊二の言うように、そろそろ結婚してもいいかなと思っている。これからその報告のために里美の墓参りに行く。里美は許してくれるだろうか。

 線香を立て彼女と二人で手を合わせた。里美とはじめて出会った日、俺に一瞥した時の目と俺が結婚しようと言った時に見せた潤んだ瞳が頭の中で交互に浮かんだ。隣で手を合わせる彼女はどんな思いで手を合わせているのだろう。彼女も結婚してすぐに旦那を交通事故で亡くしている。それからひきこもりになってしまったようだが、周りの優しさのおかげで立ち直るきっかけができたようだ。そんな彼女を俺は幸せにしたいと思った。絶対に幸せにする。十五年前と同じ気持ちになれた。
 里美はきっと応援してくれているはずだ。十年前の最期の言葉を思い出す。
「これからも誰かを幸せにするための出会いを大切にしてね」
 俺はこれから、幸せな出会いをサポートする。そして今隣にいる涼子を幸せにする。