小説に興味を持ってから人生が楽しくなった

読書が苦手だった私が、五十歳を過ぎてから、急に読書が好きになった。そのおかげで人生が豊かになった気がする。これからもっと読書が好きになれるように、人生が楽しく豊かになるように

森沢明夫さんの「大事なことほど小声でささやく」の名言

「ねぇ奥さん、筋肉ってのはね、トレーニングで苛めて、苛めて、わざと傷をたくさんつけてやるの。そうすると筋肉痛が起きるけど、それでいいのよ。傷ついた筋肉は、治るときに以前よりも太く、強くなるから。これ、超回復っていうんだけどね」
「はあ……」
「家族も同じ。ときには傷つけ合ってもいいの。仲直りしたときに、それまで以上に深い絆でつながれるんだから。だって、それが家族でしょ。他人同士じゃ、なかなかそうはいかないものよ」

「一番騙しやすい人間は、すなわち自分自身である」
「え……?」
「イギリスの政治家が言った名言よ。ミレイちゃん、あなた、自分に騙されちゃ駄目よ」

「筋肉ってのはね、トレーニングと休息の両方があってはじめて強くなるのよ。がんばるだけじゃ、逆に弱くなっちゃうの。あたしの見たところじゃ、坊やはトレーニングが足りなくて、ミレイちゃんは休息が足りてないわね。お互いが強くなるために、坊や、あんたはいま、何をすればいい? ちょっと考えれば、分かるわよね?」

「いいこと? 人生に大切なのはね、自分に何が起こったかじゃなくて、起こったことにたいして自分が何をするか、なのよ。起こったことなんて、そのまま受け入れればいいの。どうせ過去は変えようがないんだから。でもね、考え方ひとつで、起こったことをチャンスに変えることはできるの。ピンチはチャンスよ。分かるわね、坊や。あなたは今回のチャンスを利用して、人気作家から絶大な信頼を得なさい。そうすれば、あなたの将来に、きっとプラスになるわ。しかも、ここで踏ん張れば、心の筋肉も少しは鍛えられて、いい男になれるわよ」

 高校生になった俊介はすでに「喜び」という感情の本質を理解していたのだ。
 つまり、誰かと分かち合った喜びは大きくて長持ちもするけれど、ひとりぼっちで味わう喜びは、小さくてすぐに消えてしまうのである。

「誰かを愛して誰かを失った人は、何も失っていない人より美しい」
「な……、何すか、それ?」
「イルマーレっていう映画に出てくる有名な台詞です」
 ゴンママの代わりに、カオリちゃんが白っぽいカクテルを作りながら答えてくれた。
 いったい、何を言いたいんだ、この人たちはーー。
「でもね、愛した人を失わないように努力をした人だけが、きっと美しいのよ。最初からあきらめていた人は、たとえ愛する人を失っても、そんなに美しくないはずだわ」

「葉月、病院のベッドの上に横たわったまま、俺にこんなことを訊いたんだよ。ねえパパ、人間はどうして生まれてくるの? って」
 由佳は、葉月のメッセージをじっと見詰めたまま、もう一度「うん」と小さく頷いた。四海は妻の横顔に向かって、そのまま穏やかなリズムでしゃべり続けた。
「それって、すごく難しい質問だなって思ったんだけど、そのとき俺、たしか、こう答えたんだ。人はね、人に喜ばれるために生まれてくるんだよって。そしたら葉月、こう言ったんだ。そっかぁ、だからパパとママはわたしを喜ばせてくれるんだって……」

 末次の背中に、野太いオカマの声がかけられた。
「シャチョーさん、言っとくけど、他人は変えられないわよ。変えられるのはシャチョー自身よ」
「え?」
 末次は顔を上げて、鏡に映ったゴンママを見た。
 ゴンママは、鏡越しに、舌を上唇の内側に差し込んで、ゴリラの顔真似をしていた。その顔があまりにおかしかったから、末次は「ぷっ」と噴き出した。
「ほらね、あたしが顔を変えたら、シャチョーも仏頂面から笑顔に変わったでしょ。先に自分が変わらなきゃネ」
 真顔に戻ったゴンママの台詞に、末次も笑うのをやめた。
「シャチョーの会社の若い子の姿ってのはね、もしかすると、シャチョー自身の姿なんじゃないかしら?」

 末次は感動していたのだ。そして、しみじみ反省もしていた。自分の会社で働いてくれる社員にたいして、こともあろうに「ゆとり世代」などという大雑把なくくり方をしてしまったことを恥じたのだった。そうなのだ。人を判断するときは、あくまでも個人の資質を問うべきであって、団塊世代だの、ゆとり世代だの、新人類だのと、目に見えない枠に勝手にあてはめてはいけないのだ。これからは、ゴンママの言うように、こちらから心をしっかり開いて、ちゃんと「人と人」として付き合わなければ、彼らの本質など何ひとつ見えてこないだろう。

 いい、カオリちゃんーー。
 あなたが生きられるのは、いまこの瞬間だけなのよ。過去と未来を思い煩(わずら)っても、それは無駄なだけ。
 やり直すことのできない過去を悲しんでいたら、せっかく生きている「いま」が不幸になっちゃうだけでしょ? それにね、まだ来てもいない未来を不安がっても仕方ないじゃない。大切な「いま」をつまらなくするだけだわ。
 辛い過去になんてとらわれないで、未来の不安もぜーんぶ忘れて、いまこの瞬間だけをしっかり味わって生きなさい。
 それが、禅の「幸せに生きる極意」なのよーー。

「夢はね、必ず叶えなくちゃ駄目なの。叶えるとね、アラ不思議、あなたの過去が変わるのよ」
「え? 過去が変わるんですか?」
「そうよ。夢を叶えた瞬間にね、きっとカオリちゃんは思うはず。ああ、わたしのこれまでの人生は、今日、この日のためにあったんだって。その瞬間、まるでオセロの黒い列が、端っこから一気にパタパタと白に変わるみたいに、辛かった過去がキラキラした大切な思い出に変わるのよ」